ご挨拶

第59回日本交通科学学会 学術講演会
会長 渡邉 修
(東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

コロナ禍にあり、会員の皆様は、常に、感染拡大にご配慮いただきながらも、献身的、精力的にご活躍をされておられることと思います。このような中にありましても、このたび、第59回日本交通科学学会 学術講演会を開催させていただくことになりました。この機会を与えて下さいました日本交通科学学会の皆様に対し、心から厚く御礼を申し上げます。

日本交通科学学会は、昭和37年に、「日本交通医学協議会」として設立されました。この時期は、我が国が、戦後の復興期から抜け出し、経済活動が活性化し、それに伴い、自動車や二輪車の普及が目覚ましく、その結果、交通事故死者数が上昇傾向(昭和38年、11,445人)にあった時期でした。当学会が、「交通安全」を最大の研究目的にすべく設立されたのには、このような時代背景があったものと思われます。以後、本学術研究団体は、交通工学および行政の専門職、外傷、救急医学に関わる多分野の専門職が関わり、学際的な研究活動、広報活動に取り組んで参りました。昨年、2022年には、交通事故死者数は、2,610人にまで減少できたのも、実に多くの交通社会に寄与されてきた方々の賜物ということができます。

一方、以上の時代は、高度先進医療が発展し、高齢者と障害者が著増した時代でもありました。その結果、認知症やてんかん発作などの脳損傷に起因する数々の痛ましい交通事故の報道が後を絶たなくなりました。複雑化している現代社会において、自動車運転は、人間が社会に参加していく上で極めて有用な手段です。衣食住のみならず、社会的交流や情報収集、さらに就労等、生き生きとした生活を送るためには、もはや、運転は欠かすことができません。専門職に対し、科学的な視点での安全な自動車運転のための能力評価と一定の基準、そして指導、訓練、また、運転が不可能であれば、可能となる技術、さらに移動のための代用手段の方法、生活環境の調整が求められていると思います。

第59回日本交通科学学会 学術講演会は、この点に注目し、「高齢者・障害者の安全・安心な交通社会を目指して」を、目標に掲げ、基調講演、シンポジウム、教育講演、一般演題発表を企画させていただきました。高齢者および障害者の自動車運転に係る諸問題について、教育研究関係者(工学者,自動車工学者、リハ工学者、認知科学者、実験心理学者、社会学者等)、医療関係者、自動車教習所関係者(指導員等)、行政関係者(警察、公安委員会等)、企業関係の皆様のご参加のもと、安心、安全な交通社会の創生のためのご発表をいただきたいと存じます。皆様にお越しいただけることを心よりお待ち申し上げております。